私たちは普段、会話やテレビの音、車が近づく音など、さまざまな音を自然に聞き取っています。そのため、聞こえ方に変化が起きても、最初は「少し耳が詰まっているだけ」「疲れているのかもしれない」と考え、そのまま様子を見ることがあります。特に片方の耳だけに異常が起きた場合、反対側の耳で音を補えるため、聴力の低下に気づきにくいケースもあります。
しかし、突然起こる聞こえ方の変化の中には、早めの診断と治療が必要な病気があります。その代表的なものが突発性難聴です。治療を開始する時期によって、その後の聴力に影響する可能性があるため、急な聞こえにくさや耳鳴り、耳が詰まった感覚などを軽く考えないことが大切です。
突発性難聴とはどんな病気?
突発性難聴とは、あるとき突然起こる、原因を特定できない感音難聴です。感音難聴とは、耳の奥にある内耳や音を脳へ伝える神経などに障害が生じることで起こる難聴を指します。一般的には左右どちらか一方の耳に生じ、ごくまれに両耳に症状が現れる場合があります。朝起きたときに片方の耳が聞こえにくくなっていることに気づくケースや、電話を耳に当てた瞬間に左右の聞こえ方の違いに気づくケースもあります。
聞こえにくさの程度には個人差があり、ほとんど音が聞こえないほど聴力が低下する人もいれば、「音がこもる」「いつもより聞き取りにくい」といった軽い変化だけを感じる人もいます。突発性難聴では耳鳴りや耳閉感、めまいを伴うこともあります。聞こえ方の異常が軽い場合でも突発性難聴の可能性は否定できないため、片方の耳に突然変化が現れた場合は耳鼻咽喉科で聴力を確認することが重要です。
突発性難聴の主な原因
突発性難聴では、内耳にある「有毛細胞」と呼ばれる細胞が何らかの影響を受け、音を正常に脳へ伝えられなくなることで聴力が低下すると考えられています。有毛細胞は、耳に入ってきた音の振動を電気信号へ変換する重要な役割を担っています。しかし、なぜ有毛細胞に障害が起こるのかについては、現在も明確には解明されていません。血流障害やウイルス感染、免疫反応など複数の要因が関係している可能性が考えられています。
また、突発性難聴はストレスや過労、睡眠不足などが重なった時期に発症することがあり、糖尿病や喫煙歴などとの関連も指摘されています。ただし、「ストレスが強かったから突発性難聴になった」と単純に原因を決めることはできません。明確な原因を特定できないことが突発性難聴の特徴でもあるため、原因探しだけに時間をかけるのではなく、まず聴力の状態を確認し、必要な治療につなげることが重要です。
突発性難聴の初期症状
突発性難聴では、「突然聞こえなくなった」という分かりやすい症状だけが現れるとは限りません。耳鳴りが急に始まった、耳の中に水が入っているように感じる、耳が塞がったように感じる、音が響いて聞こえるといった症状から始まることもあります。片方の耳だけに症状がある場合は、反対側の耳で会話を聞き取れるため、聴力が低下していることに本人が気づかないケースもあります。
突発性難聴は発症後できるだけ早く治療を始めることが重要で、厚生労働省の情報では発症後早期、目安として1週間以内に治療を受けることの重要性が示されています。そのため、急な耳鳴りや耳閉感だけであっても、片耳の聞こえ方に違和感がある場合は早めに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。
突発性難聴の診断と検査の流れ
突発性難聴が疑われる場合、まず症状が始まった時期や聞こえ方の変化、耳鳴り、耳閉感、めまいの有無などを確認します。そのうえで耳の中や鼓膜を診察し、耳垢や中耳炎など、外耳や中耳に聞こえにくさの原因がないかを調べます。さらに純音聴力検査などを行い、どの程度聴力が低下しているのか、どの周波数の音が聞こえにくくなっているのかを確認します。
突発性難聴は、検査だけで直接病気を証明するものではなく、突然発症した感音難聴の中からほかの病気を除外しながら診断します。急性低音障害型感音難聴、メニエール病、音響外傷、外リンパ瘻、聴神経腫瘍などでも急な難聴が起こることがあります。症状や経過によってはMRI検査を行い、聴神経腫瘍や脳の病気などが隠れていないかを確認することもあります。
突発性難聴の治療
突発性難聴では、副腎皮質ステロイド薬を用いた薬物療法が中心となります。ステロイド薬は内服または点滴で投与され、症状の程度や患者さんの全身状態などを踏まえて治療方法が選択されます。医療機関によっては、ビタミンB12製剤、ATP製剤、血管拡張薬などが併用される場合もあります。治療中は十分な休養と睡眠を確保し、身体的、精神的な負担をできるだけ減らして過ごすことも大切です。
ステロイドの全身投与が難しい場合や、最初の治療で十分な聴力改善が得られなかった場合には、鼓膜の内側へステロイド薬を注入する「ステロイド鼓室内投与」が検討されることがあります。また、高気圧酸素療法などが選択されるケースもあります。治療方法は難聴の程度、発症からの期間、持病、年齢などによって異なるため、検査結果を踏まえて医師と相談しながら治療方針を決めていきます。
突発性難聴は治る?
突発性難聴は治療によって聴力が回復する可能性がありますが、すべての人が発症前と同じ状態まで戻るとは限りません。一般に、治療開始が早いほど聴力の回復が期待しやすく、発症から時間が経過すると改善が難しくなる傾向があります。
治療期間と通院の目安
治療期間は聴力低下の程度や治療への反応によって異なります。ステロイド治療を一定期間行った後も、聴力の変化を確認するために定期的な聴力検査が必要です。治療開始後すぐに聞こえが改善する人もいれば、時間をかけて改善する人もいるため、自覚症状だけで治療を中断することは避けます。聞こえが戻ったように感じても、周波数によっては聴力低下が残っている場合があります。医師の指示に沿って通院し、聴力検査によって回復の状態を確認することが大切です。
突発性難聴の再発リスクと予防
一般的な突発性難聴は、一度発症した後に同じ症状を何度も繰り返すことが典型的な病気ではありません。難聴を繰り返す場合には、メニエール病や急性低音障害型感音難聴など、別の疾患が関係していないかを確認する必要があります。過去に突発性難聴と診断されたことがあっても、再び聞こえにくさが現れた際に「前と同じ病気」と自己判断せず、改めて耳鼻咽喉科で診察と聴力検査を受けることが重要です。
突発性難聴には確立された予防方法がありませんが、過労や睡眠不足を避け、日頃から体調を整えることが重要とされています。また、糖尿病などの基礎疾患がある場合は適切な管理を続けることも重要です。何より大切なのは、発症そのものを完全に防ごうとすることより、急な聞こえの変化を見逃さないことです。片方の耳が急に聞こえにくくなった、耳鳴りや詰まり感が突然現れたと感じた場合は様子を見続けず、できるだけ早い段階で耳鼻咽喉科を受診しましょう。
